今月の
特集
2024.7.1
夢を追う
和菓子職人・「菓匠FUKUROU」代表 中山美奈さん
和菓子職人・「菓匠FUKUROU」代表 中山美奈さん 大阪府 37歳
| みんなが「美味しい」と笑顔になれる和菓子を
ふわふわのどら焼きの皮に、優しい手つきで餡(あん)子を挟んでいく。真剣な表情の中に、時折ふっと笑みがこぼれる―。和菓子職人の中山美奈さんは、昨年10月29日、念願だった自分のお店をオープンした。
「大好きな和菓子をつくり、お客さんに喜んでもらえる。なんて幸せなんやろう。毎日そう実感しています」。
取材に訪れたこの日は平日にもかかわらず、開店直後から客足が途絶えない。多い日には300人も訪れるという人気ぶりだ。しかし、中山さんのこれまでの道のりは、決して楽なものではなかった。
| どら焼きづくりに込めた母への思い
「私が5歳のときに両親が離婚。兄と姉と私を育てるため、母は朝から晩まで働いていました。忙しい中でもたくさんの愛情を注いでくれ、霊友会の教えにも一生懸命でいつも人に尽くしている母。そんな母が大好きで、尊敬していました」。
高校卒業後は就職すると決めていた中山さん。日本の伝統や職人の世界に興味をもち、あるとき、近所の和菓子屋で上生菓子(※)の造形に目を奪われた。
「こんなに美しい世界があるんやなって。そして、気になった和菓子をいくつか買って帰り、どら焼きを食べた瞬間、あまりの美味しさに感動! 『ここで働かせてください』と直談判し、新卒は採用していないと断られても、あきらめずに熱意を伝え続け、働かせてもらえることになりました」。
師匠から仕込みの技術を学ぼうと、率先して朝4時に出勤する日々。力仕事も多く、体力的にはきつかったが、下を向くことはなかった。
「19歳のとき、いつも家族でお世話になっていた知人が病に倒れました。ある日、私がすごく上手に焼けたどら焼きをその方に食べてもらったんです。すると、『美味しい。ほんまに美味しい。これで店出しや』と笑ってくれて……すごくうれしかった。それが最後の会話になりました。その方がいつも言っていたのが、『お母さんを幸せにするんやで』。そうや。母が誇りに思えるような立派な職人になりたい。美味しいどら焼きをつくって、いつか自分のお店をもって親孝行したい。それが私の夢になりました」。
お店の看板メニュー。毎朝焼き立てのどら焼きはふわふわで美味しい!
19年間、ひたむきに和菓子づくりと向き合ってきた。その間、結婚、出産、離婚を経験。娘を育てながら、百貨店内の和菓子店で働き、菓子メーカーでもパートをするなど、いろんな場所で修行した。どこにいても、職人仲間と切磋琢磨し、自分の腕を磨くことを忘れなかった。
「プライベートでは、なんでこんなことが起こるんや!?っていう問題がたくさんありました。そのたびに、支部長が親身になって寄り添ってくれて……。真剣にお経をあげ、まわりの人に霊友会の教えを伝える中で、自分の心と向き合い、一つひとつ乗り越えていくことができました」。
| 〝フクロウの親子〟のように大きく羽ばたいて―
職人として研鑽を積み、開業に向けて物件を探し始めた昨年の初め。大阪市東住吉区で70年以上地元に根付く和菓子屋が、事業継承者を探していると耳にした。早速、現地に足を運んで話を伺うと、店主の温かい人柄、店を訪れるお客さんの幸せそうな笑顔に胸を打たれた。この地でスタートしたい。その思いを快く受けとめてもらい、中山さんは動き出した。
「大切な商品の1つ『かりんとう饅頭(まんじゅう)』を伝授していただき、餡子の炊き方も1から学ばせていただきました。もっと腕を磨いて、私も地元の人から愛されるお店をつくりたい。新たな挑戦にワクワクしました。
お店のコンセプトやロゴ、オリジナル商品の開発、外装、内装……てんやわんやでしたが、たくさんの人に助けられました。快く手伝いに駆けつけてくれた昔の職人仲間。業者として素敵な外観・内観作りに携わってくれた霊友会の仲間。朝から晩まで、一生懸命働いてくれるスタッフ。1人では絶対にここまで来れなかった。オープン初日、店の外に並んだ行列を目にしたとき、私はほんまにまわりの人に恵まれてるんやな。ありがたい。感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました」。
持ち前の明るさと笑顔も中山さんの魅力
どら焼きの他にも、かりんとう饅頭やフルーツ大福など、さまざまな人気商品が並ぶオシャレな店内
現在、2号店の出店を控え、前進し続ける中山さんと「菓匠 FUKUROU」。ちなみに、帽子にもプリントされている店のロゴであるフクロウの親子は、中山さんと中学2年生の娘がモデルだ。
「実は、娘は昨年から学校に行けなくなっていました。理由を聞いてもよく分からず、どうしたらいいか悩んでいたんですが……。今年5月の『青年の弥勒山セミナー』に参加してから、学校に行くようになったんです。それどころか、クラスでいじめられている子を助けたと聞いてびっくり。きっと、弥勒山でたくさんの同世代とふれあって、娘の心にいい変化があったんだと思います。
私も、学生の頃からつどいや弥勒山でいろんな人と関わり、相手を思いやることや感謝の心をもつ大切さを学んできたことが仕事にも生きています。先日、2号店の出店が決まったとき、出店先の商業施設の方から『数ある店舗の中から選ばれた決め手の1つが、店主さんの人柄です』と言っていただきました。これからも、霊友会の教えを指針として娘と一緒に成長し、“フクロウの親子”のように大きく羽ばたいていきたいです」。
そんな中山さんの今後の夢は―。
「昨年から、母が闘病していることをきっかけに、母にも食べてもらえるようにと、添加物を使わない商品をつくっています。また、親せきには障がいのある子もいるのですが、障がいのある人も、和菓子づくりに携われる職場をつくりたい。
みんなが『美味しい』と笑顔になれる和菓子をつくり、どんな人も幸せだと思える地域づくりに貢献していきたいです」。
菓匠FUKUROU
火曜~日曜10:00~18:00(月曜定休)
大阪市東住吉区田辺2 丁目1-2
*大阪メトロ田辺駅から徒歩1分
(※)上生菓子…特に上等な生菓子のこと。職人の熟練の技術を駆使して一つ一つ手で作り上げ、季節感も取り入れる。
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