今月の
特集

2022.7.1

“三者”の心がふれ合うとき

弥勒山「三者のつどい(春班)」が3年ぶりに帰ってきた。誰よりもその開催を待ち望んでいた参加者たちが、2泊3日、さまざまなプログラムを通して出会い、ふれ合った。

    1. ■Interview—心を通わせ、人生をもっと楽しく【中村美喜さん・中村美香さん】
      今回の弥勒山に、手話通訳者とともに参加した2人の聴覚障がい者の青年がいた。姉の中村美香さんと、妹の美喜さん。常に明るく笑顔の絶えない、仲の良い双子の姉妹だ。…続きを読む
    2. ■ボランティアの声
      弥勒山「三者のつどい」では、家族や介護者、介助者以外にも、障がい者の行動やプログラムへの参加をサポートするボランティアがいる。青年たちの声を集めた。…続きを読む
    3. ■Message—どんな人も、人の役に立てる【青年部部長・前田康喜】
      今回、第43回弥勒山「三者のつどい(春班)」に参加させていただき、困難な境遇にも負けず前向きに生きているみなさんの姿から勇気をもらいました。そして、ある会員の顔が頭に浮かびました。…続きを読む

心を通わせ、人生をもっと楽しく

今回の弥勒山に、手話通訳者とともに参加した2人の聴覚障がい者の青年がいた。姉の中村美香さんと、妹の美喜さん。常に明るく笑顔の絶えない、仲の良い双子の姉妹だ。彼女たちがこれまでどんな人生を歩んできたのか、久しぶりに参加した弥勒山「三者のつどい(春班)」で何を感じたのか、話を聞いた。

※中村美喜さん(左)中村美香さん(右)

美香 私たち姉妹は、先天性の聴覚障がいがあります。二人とも、生まれたときからほとんど耳が聞こえません。コミュニケーションの手段は読み書きと、特別支援学校で覚えた手話です。障がい者同士のコミュニティーの中でずっと生活していたので、小学生まで健常者と関わる機会はほぼありませんでした。

美喜 中学生になるとき、伯母から勧め られ、「青年の弥勒山セミナー(春の学 生班・青年部入部式)」に参加しました。人生で初めて、たくさんの同年代の健常者と関わる機会。不安もある中、新しい世界が広がるかもしれないというワクワク感も少しあったんですが……。

美香 青年部への入部を記念してみんなで弥勒山に植樹をしていたときのこと。同じ新中学1年生の子に、耳が聞こえないことをからかわれたんです。今思えば、障がいの知識もない子どもが、悪気があって言ったわけではないことは理解できます。

でも、当時の私たちにはショックでした。特別支援学校では、私たちの障がいを馬鹿にする人なんていなかったのに。障がい者の気持ちは、健常者にはどうせ分からないんだ。健常者と関わっても、いいことなんかない。そう思いました。

美喜 その後のスケジュールは、同じ支 部の人にくっついて漠然と周りの様子を 眺めているだけで、全然楽しくありませんでした。弥勒山にはもう来ないだろうし、健常者と関わることもないだろう。そう心を閉ざすようになったんです。

私たちを変えた忘れられない出会い

美香 辛い経験をしたあの日から3年 後、高校生になるとき、再び伯母から弥勒山に行くように勧められました。嫌だな。行きたくないな。そう思いながらも、伯母の強い勧めで渋々参加した弥勒山。そこで、思いがけない出会いが待っていたんです。

美喜 あるコーナーで、参加者の輪に入 らずポツンとしていた私たちに、一人の女性が声をかけに来ました。「どうしたの?」と聞く彼女に、筆談で耳が聞こえないこと、弥勒山が楽しくないことを伝えました。すると彼女は、「分かってあげられなくてごめんね」と言って、ぽろぽろと涙を流したんです。びっくりしました。

美香 そして、私たちが少しでも楽しめ るようにと、参加者の輪の中に引っ張ってくれ、身振り手振りや筆談で、私たちがほかの参加者とコミュニケーションを取れるように一生懸命サポートしてくれたんです。私たちのためにそこまでしてくれるなんて……すごくうれしかった。

美喜 健常者に私たちの気持ちは分からないとあきらめていたけど、いつまでも頑なに考えていたらいけないな。私たちも心を開いて、健常者の人たちと積極的に関わっていこう。そう思うことができました。すると、あんなに嫌だった弥勒山の印象が180度変わり、楽しい場所に変わったんです。

美香 高校を卒業後、私たちはそれぞれ 大学へ進み、就職しました。その過程で、 健常者とも臆せず関わることができたのは、あの弥勒山での出会いがきっかけになり、つどいや弥勒山でいろんな人と関わってきたから。

美喜 あのとき、彼女が声をかけてくれ たから、私たちの人生は変わりました。 今でも、本当に感謝しています。この恩は一生忘れません。

二人が参加した13年前の弥勒山での1シーン。ここが転機となった。

コロナ禍だからこそ生まれた苦悩と気づけたこと

美喜 私は今、自動車関係の会社に勤め ていますが、コロナ禍になって新たな苦 労が生まれました。それはマスクです。聴覚障がい者は、手話だけでなく、口の動きで相手が何を言っているかある程度分かるんですが、それができない。もう一つは、表情が分かりにくいことです。楽しいのか、悲しいのか、怒っているのか。コミュニケーションを取るのが難しくなりました。

美香 私は町役場の福祉課で働いていま すが、同じ悩みがあります。仕方ないと 割り切っている部分もあるけど、やっぱり少し大変だなと思いますね。

美喜 そんな中、コロナ禍で開催を中止 していた霊友会福祉センター主催の手話 講習会が、「手話入門!オンラインで手話(かた)ろう!」として昨年4月からスタート。誰でも気軽に手話を楽しめるこの機会に、私たちも福祉センターから声をかけてもらい、講師をサポートして参加者に手話を伝える役割を担うことになりました。

美香 自己紹介や挨拶、趣味などの初歩的なものから、「南無妙法蓮華経」や「弥勒山」など霊友会ならではの手話表現を学ぶ。回を追うごとに、感情を込めて上手に表現できるようになり、みなさんとても楽しそうでした。
 画面越しでも、お互いの表情を見ながら気持ちのやり取りができる。人とコミュニケーションを取るってやっぱり楽しいし、うれしいな。そうあらためて気づくことができました。

美喜 参加者の1人が、同僚の聴覚障がい者と手話でコミュニケーションを取るようになったという話もあったんです。すごくうれしかった。私たちも明日からまた頑張ろう!と元気をもらえました。
 そして、みなさんに対面で会いたい。仕事が忙しくてずっと参加できていなかった弥勒山「三者のつどい(春班)」に、参加したいという気持ちが強くなっていきました。

10年振りに参加した「三者のつどい」を新たなスタートに

美香 その念願が叶い、10年振りに参加 した今回の弥勒山。オンライン手話の参加者も何人か来ていて、「やっと会えたね!」と喜び合いました。

美喜 いろんな障がいをもつ人たちがい るけど、みんな生き生きしていて、すごく楽しそう。どんな人でも受けとめてくれる場だからこそ、自分らしくいられる。それがこの弥勒山の良いところですね。

美香 そうだね。私は職場が福祉課なのでいろんな障がい者と接点があるんですけど、役所のように、困っていることを相談できる場所はあっても、三者のつどいのようなお互いに元気を与え合える場ってなかなかないんですよね。
障がい者、家族・介護者・介助者、ボランティアの三者がお互いを尊重し、ふれ合う中で、生き生きと生きる力をもらえる。そんな機会を、一人でも多くの人に知ってほしいと思ったし、自分たちからも伝えていきたいと思いました。

※参加できて良かった!第43回弥勒山「三者のつどい(春班)」

美喜 美香は2017年、私は2019 年に愛知県の聴覚障がい者の協会にも入 り、2年前から青年部の役員になりました。今は3年目になり、聴覚障がい者が抱える問題や今後の課題について勉強しています。また、機関紙を作ったり、インスタグラムでいろんな情報を発信したり。そうした環境や経験も生かして、障がいのあるなしにかかわらず、人と人が心を通わせて、より良く生きるきっかけづくりをしていきたいです。

【弥勒山「三者のつどい」 って?】
障がいのある人、その家族・介護者・介助者、ボランティアの「三者」がお互いの立場を尊重し、足りないところを補い、支え合いながら、障がいのある人も健常者も区別なく共に行動し、社会に貢献する―。その理念のもと、昭和52年(1977)に発足したのが、現在でも霊友会の福祉活動の根幹を担う「三者の会」だ。その精神を生かした活動の中で毎年開催される弥勒山「三者のつどい」も、「三者」が共につくりあげ、互いの姿から学び合う場だ。毎年、春と夏に開催され、大きな感動を呼んでいる。

 

【自分のペースで楽しめる!オンライン手話

中村姉妹も参加している「みんなで手話(かた)ろう!オンライン手話!」。

今年度は令和4年4月~令和5年3月まで、毎月1回、入門・初級・中級の3クラスに分かれて開催しています。期間途中からの受講も可能です。興味のある方は、ぜひ下記までお問い合わせください。

霊友会福祉センター
TEL:03(5563)2510 FAX:03(5563)2541 Mail:fukushi@reiyukai.or.jp

ボランティアの声

弥勒山「三者のつどい」では、家族や介護者、介助者以外にも、障がい者の行動やプログラムへの参加をサポートするボランティアがいる。青年たちの声を集めた。

 

人として大切なことを

私の母は義足です。叔母と一緒に母の介助者として弥勒山「三者のつどい」に参加するのが毎年恒例でした。
 今回、ボランティアとして初めて母以外の参加者を サポート。視覚障がい者の移動を補助したり、各コーナーの進行を手伝ったりしました。その中で、うれしい、楽しいっていう感情を素直に表現するみなさんの姿がすごく印象的で……。私は普段、職場では本音と建前があって、どこか事務的に人と関わっていたなって。人として大切なことを教えてもらった気がします。(30 代・女性)

自分の特技、個性を生かして

「パソコンが得意なら、聴覚障がい者に話を要約して文字で伝える『要約筆記』のボランティアをしない?」。支部長のこの言葉をきっかけに参加するようになり、10 年以上。機械いじりが得意な私は今回、「お祭り広場」で音響を担当しました。みなさん笑顔が弾けて心から楽しんでいる姿を見ていると、胸が熱くなって……。これまで、ボランティアと言いながらどこか一歩引いていた私。でも、自分の特技を生かして人の役に立てることがある。この経験を糧に、社会に貢献できる自分になっていきます。
(30 代・男性)

ここが私の元気の源

今年はいつも一緒に来ていた祖母が亡くなってから初めての参加。寂しい気持ちがありましたが、祖母が生前仲の良かった方をはじめ、3年ぶりの顔にたくさん会えてうれしかった。自然と笑顔になりました。
 ボランティアのつどいで視覚障がい者の苦労を知り、遠慮せずに声をかけることが大事なんだと学びました。私の職場には障がいのある人が多いので、早速できることから始めてみます! 弥勒山「三者のつどい」は、私の元気の源です。(20 代・女性)

※写真はイメージです。本文の登場人物とは関係ありません。

どんな人も、人の役に立てる

青年部部長 前田康喜

今回、第43回弥勒山「三者のつどい(春班)」に参加させていただき、困難な境遇にも負けず前向きに生きているみなさんの姿から勇気をもらいました。そして、ある会員の顔が頭に浮かびました。

私がまだやんちゃだった二十歳そこそこの頃。いつも一緒に遊んでいた地元の後輩が病気で倒れ、左半身に麻痺が残りました。かわいそうやなと思う反面、健康な自分と同じように出歩けない彼と、どう関わったらええねん、と。モヤモヤを抱えたまま半年も経ってしまいました。

そんなとき、母から「家に来てもらって何でも話したらええやん」と言われたんです。そうか、それならできる。彼を家に連れてきてたわいもない話をし、彼の家まで送る。それを続けました。

3カ月後のある日、後輩を家まで送って行くとご両親が外に出て来られ、頭を下げられたんです。「前田くんの家に行くようになって、この子、家で笑うようになりました。ありがとうございます」。その言葉に、私は涙があふれました。

自己中心的で、何をするにも一番じゃないとイヤだった自分。こんなオレでも人の役に立てるんや。人に喜んでもらうって、こんなにうれしいんや。今まで味わったことのない感動と、人として生きていく上で大切なことを、その後輩が教えてくれたんです。その後も、彼は霊友会の教えを一緒に実践して、職場でも明るく元気に頑張っています。彼を元気にしたいと思って関わった私の方こそ、いつも元気をもらっているんです。

どういう生まれ方、育ち方をしてきていても、どんな人も、人の役に立てる。それぞれの地元で、生きる希望を与え合える仲間の輪を広げ、ともに温かい世の中をつくっていきましょう。