Global Voice

2023.8.1

体験の仏教 海外編

人を思う心を育てていくこと。
   それが一番の親孝行

ブラジルに住むモレーナ・ノゲイラ・パシェコさんは、抑圧的な親のもとでつらい思いをしてきた。幼少期は父に暴力を振るわれることが日常で、両親が離婚してからも干渉してくる父が嫌いだった。支部長からは、「お父さんに親孝行しなさい」と言われるが……。

|   なぜ、あんな父に親孝行しなくてはいけないの?

私は幼い頃、機嫌が悪いと家族に暴力を振るう父のホナルドのことが怖くて仕方がありませんでした。いつも母のエジレネの背中に隠れるようにして、怯(おび)えて暮らしていたのを覚えています。

私が6歳のときに両親が離婚。父が家を出ていき、母と4歳下の妹と一緒に暮らすことになりました。当時の私は、正直に言えば、もう父に暴力を振るわれないことにホッとしていたのです。離婚してからも、父が住む家には定期的に家族で訪れていました。父との親子関係を絶やさないようにとの母の配慮だったと思いますが、私は気が進みませんでした。

父はいつも自分の友達と夜遅くまで遊んでばかりで、私たちを放っておいて悪びれもしません。そればかりか、嫌になった私が父の家を訪れなくなると、父は自分のことは棚に上げて気を悪くするのです。私たちは顔を合わせる度にケンカばかりしていました。

それに加えて妹のクララが、事あるごとに私に反抗するようになりました。私は、「両親が離婚してからずっと世話を焼いてあげているのに!」と妹に腹が立ち、気持ちはすれ違うばかりでした。そして、このような家庭環境をつくった父への怒りは膨らんでいったのです。

そんな私は、大学を卒業してすぐの頃に友人から霊友会の教えを紹介されました。「お経をあげて、毎日先祖や家族に感謝するの。これは親孝行の教えなんだよ」と聞いた私は、ずっと育ててくれた大好きな母に、何か親孝行ができるならと霊友会に入会したのです。

妹は教えに懐疑的でしたが、母は先祖供養に興味を持って、一緒にお経をあげるようになりました。そんな私たちを親身になって支えてくれたのが、ミシェリ・ルジミラ・ジュンケス支部長でした。私の話に耳を傾けてくれて、何でも話せることがありがたく感じました。

ある日、私は家族との関係や父について相談しました。支部長は、「まずはあなたが親孝行できるように、お父さんとその先祖に申し訳なかったという気持ちで修行してみなさい」と言うのです。私は、なぜあんな父に頭を下げて、親孝行をしなければならないのか、よく分かりませんでした。

そんな私を支部長は様々なつどいに連れて行ってくれました。他人(ひと)事とは思えないような家族の悩みを抱えた人が、この教えで問題を解決していく姿を目の当たりにし、少しずつ父への親孝行の実践について考えるようになっていったんです。

昨年8月、フロリアノポリス市にある霊友会の分局で支部の仲間と一緒に。中央がモレーナさん、その左隣はミシェリ支部長

|   父のことを許せなかった。
          でも心のどこかで、
          ちゃんと向き合いたかった

昨年、友人のマヌエラ・オルシさんと久しぶりに再会。アメリカから帰国した彼女から、仕事の愚痴や悩みをたくさん聞きました。私もその頃、コロナ禍の影響もあって介護福祉の仕事で激務が続き、心身のバランスを崩していました。一緒に問題を解決していきたいと、彼女に霊友会の教えを伝えたのです。

私が「親孝行の教えだよ」と言うと、彼女は両親と不仲で家出同然に実家を出たと話してくれました。それを聞いた私は、心から、彼女と一緒に修行をしたいと思いました。そしてその日のうちに、彼女の母のロサネ・オルシさんとも会って話をしたのです。

私の思いが届いたのか、2人は親子で入会。一緒に町の人に導きの声をかけていきました。私たちは家族の問題で悩んでいる数多くの人と出会う一方で、変わらないといけない自分自身の姿に気がつきました。

少しずつ歩み寄る親子の会員を見守るうち、私も父と分かり合いたいと、心から思うようになりました。今まで、家族を蔑(ないがし)ろにしてきた父を許せませんでした。でも心のどこかで、父に私たちと向き合ってほしいと思う自分もいたのです。私は父とコミュニケーションを取るようにしました。

父は、私から連絡が来たことに驚いたようです。ぎこちないながらも、私も仕事で行き詰まって落ち込んだことなどを話しました。そして私は、冷え切っていた父との仲を変えていきたいと自分の言葉で伝えました。

父親のホナルドさんと

最近は、父の方から「元気か?」と連絡をくれるようになりました。私たちの住む家のことなど、今まで避けてきた話もしてくれて、家族に真剣に向き合ってくれるようになったのです。

私は妹に対しても、感情的に自分の気持ちをぶつけるのではなく、妹の言葉に耳を傾けるようにしました。妹も私の変化を感じてくれたのか、いつの間にかケンカはしなくなりました。

父との間にはまだまだ壁もありますが、家族の幸せのために精いっぱいできることをしようと思っています。私を支えてくれたミシェリ支部長や、会員のみんな、家族に感謝の気持ちを忘れず、多くの人に霊友会の教えを伝え、共に幸せになるための修行に取り組んでいきます。

母親のエジレネさん(右)と妹のクララさん