社会を学ぶ

 障がい者総合研究所での調査で、日常生活において、差別や偏見を受けたと感じる場面があるかお聞きしました。その結果、「頻繁に差別や偏見を受けたと感じている」、「ときどき差別や偏見を受けたと感じている」と回答した人は59%となりました。
 特に差別・偏見を受けたと感じる場面では「職場」が最も多いようです。障がいの特性などは個々人によって異なり、また配慮を必要とする場面も様々なことから、一概にこう配慮をすれば正解というものはありません。内閣府や各自治体などから出ている事例集などの情報を活用したり、障がいのある人たちの話を聞いて、差別のない社会をつくっていくことが大切ではないでしょうか。

 世の中の問題を他人事にせず、自分にできることから社会に貢献していく。そんな青年を目指すためのコーナー。今回は、Myおせっかい北陸合同推進委員会が開催した「社会を学ぶサロン」を紹介します。

 石川県にある社会福祉法人「佛子園」(ぶっしえん)。地域に障がい者施設、サービス付き高齢者向け住宅等の福祉施設を運営しています。施設内にある障がい者・高齢者が働く温泉、マッサージ店等の娯楽施設は、年間約40万人が訪れる人気スポット。障がいのあるなしに関係なく、誰もが生き生きと共生する町ができています。
 霊友会との交流は令和2年12月、「ありがとう こだま 基金」で支援したことがきっかけでスタート。以来、Myおせっかい石川県推進委員会の西村美穂推進委員長はじめ、地元の青年が清掃などのボランティア活動に参加してきました。
「佛子園」の取り組みを多くの人に知ってもらい、自分たちにできることを考えようと、今回、「佛子園」の施設内で「社会を学ぶサロン」を開催。「佛子園」理事の速水健二氏に講演していただきました。ここでは講演の内容と、西村推進委員長のエピソードをお届けします。


※社会福祉法人 佛子園 理事B’s行善寺 代表 速水健二氏

「ごちゃまぜ」の交流で、 誰もが元気になれる地域に!

 「気にかけ合う」ことから関わり合いが始まる

 「佛子園」はもともと、お寺に戦災孤児や障がいのある子どもを受け入れていたことが始まりで、昭和35年、障がい児入所施設として開設されました。施設で2千人を超える地域の人が集まるイベントなどを行っていたため、地域とは関係性ができていると思っていました。

 しかし、ここで育った障がいのある子どもたちが地域に出て暮らすグループホームを建てようとした際、近隣住民から「隣に建てられると困る」という話を耳にしたんです。イベントで一時的に関わるだけでは、障がい者への偏見をなくし、地域住民に受け入れてもらうのは難しいのかも知れないと感じました。

 同時期に、地域から「イベントをしているのに昔からいる住民と新しく来た住民がうまく繋がらない」という、同じような課題の声があがりました。そこで障がいのあるなしにかかわらず、地域の人たちがイベントだけではなく、日常的に関われる場所をつくろうと、B’s行善寺という場所を作りました。

 障がい者支援、高齢者支援、保育といった福祉の他、誰もが通える温泉、スポーツジム、クリニック、花屋、カフェ、公園など様々なものを複合的に揃えました。それによって、いろんな人たちが集まるようになり、障がい者と地域の人が一緒に運動していたり、高齢者が保育園の子どもの面倒を見てくれたり……。気づけば、自然発生的に多くの関わりが生まれ、障がいの有無、年齢、国籍など関係なく「ごちゃまぜ」に地域が繋がり始めました。

 関わり合うとは「支える、支えられる」といった対照的な関係ではなく、「気にかけ合う」ことから始まるのかもしれません。

 温泉施設で働く自閉症スペクトラムの男性は、物がきちんと整理されていなければ気が済まないタイプ。だから、清掃係がピッタリ。知的障がいのある飲食店の女性従業員は、注文の品を運び忘れたり、在庫を数え間違えることがあり、周りの人がサポートしていました。でも、仕事にスマホを取り入れるようになると、彼女はすぐに操作を覚え、今度はスマホが苦手な従業員に使い方を教えるようになったんです。

 環境を整えたり、周りの人が理解し支えることで、障がいがあっても得意なことを生かし、人のために働くことができます。そして、いろんな人がふれ合う中で、すごい力が生まれるのです。

※広大な敷地に様々な福祉施設が立ち並び、町全体が「ごちゃまぜ」の交流ができる場となっている

一人ひとりがもっと人と関わることが大切

 私たちが運営する障がい者施設に、重度の身体障がいと知的障がいのある男性がいます。彼は言葉が話せず、車いす生活で、首はほとんど動かすことができませんでした。また、高齢者施設には、認知症で深夜徘徊(はいかい)が増えてきたおばあさんがいます。2人の状態が少しでも改善できればと、いろんな人と共に過ごす場につれて来てみました。すると、こちらが何も言わなくても、おばあさんが男性を気にかけ、毎日男性にゼリーを食べさせるようになりました。

 おばあさんは手が震えて、うまくスプーンを運べず、男性の頬にあたってしまうこともありました。おばあさんが失敗しても私たちは手出しをせず、ずっと2人を見守っていたんです。そんなある日、男性に変化が起きました。

 おばあさんがスプーンを向けたとき、彼が自力で首を傾けたんです。理学療法士がどれだけ頑張っても大きな改善はしなかったというのに。その場にいた人たちみんなが驚きました。手が震えていても一生懸命、食べさせてくれるおばあさんの姿が、彼の心に響いたのかもしれません。おばあさんの思いやりに何とか応えよう。そう思って、頑張って首を動かしたのだと思います。

 おばあさんも、「あの子に毎日ゼリーをあげなきゃ」と、朝きちんと起きられるように夜は早く寝るようになりました。いつの間にか深夜徘徊に改善の兆しが見えてきたんです。おばあさんが男性のために行動したことが、おばあさん自身を変える力になりました。

 人は、人との関わりの中で生きる力を得ることができます。しかしながら、今、人との関わりを避ける風潮です。そんな世の中を変えるには、一人ひとりがもっと人と関わることが大切。ご近所さんに挨拶して、ついでに一言「その服かっこいいですね」と添えるのもいい。人に「ありがとう」と伝えるだけでもいい。何も難しく考えずに、自分にできることからやってみることが大切なのではないでしょうか。

 霊友会のみなさんが取り組んでいる「Myおせっかい」は、人と積極的に関わる、良い取り組みですね。誰もが平等に幸せになれる世の中を目指して、共に頑張っていきましょう。

※「ありがとう こだま 基金」の贈呈式も行われた

※今回の「社会を学ぶサロン」は佛子園で開催。午後のつどいでは、施設内のジムでストレッチ教室を体験した

知らないことを知って、体験すれば、世界が広がる! ―「社会を学ぶサロン」を開催して― (エピソード)


※Myおせっかい石川県推進委員会委員長 西村美穂さん 22 歳

 昨年10月、支部で行っている「佛子園」でのボランティア活動に参加。そこで初めて、障がいのある人たちと直接触れ合うことになりました。

 最初はどう接したらいいのか戸惑いましたが、みなさんと実際に接してみるといつもニコニコしている人、進んでみんなのお手伝いをする人、恥ずかしがり屋の人。一人ひとりの個性が見えてきたんです。私も人前で緊張するところがあるし、障がいがあってもなくても、違いがないのかな……。心のどこかにあった「障がい者=かわいそうな人」というイメージが、がらりと変わりました。

「佛子園」では、障がい者、高齢者、地域の住民、みんなが分け隔てなく過ごしています。苦手なこと、できないことはお互いにフォローし、得意なこと、挑戦したいことを応援する。そんな温かい雰囲気が大好きになって、行くたびに元気をもらいました。友達も一緒にボランティア活動ができたらもっと楽しいだろうなと思って、学生時代からの友人のRちゃんを「佛子園」のクリスマス会に誘いました。  人と話すのが苦手な彼女でしたが、みなさんとすぐに打ち解けることができて、「楽しい」と言ってくれたんです。

 たくさんの人に「佛子園」が大切にする「ごちゃまぜ」の交流を味わってほしいと思って、推進委員会の仲間と一緒に「社会を学ぶサロンin佛子園」を企画。Rちゃんをはじめ、周りの人に参加を呼びかけていきました。

絶対に成功させたい!という気持ちが一歩踏み出すきっかけに

 ところが、前々日からの大雪で、各地の道路が通行止めになるなど、交通に影響が出てしまいました。推進委員のメンバーから「明日は中止にしますか?」という連絡が入りましたが、「佛子園」と「Myおせっかい」北陸合同推進委員会の初のコラボだし、絶対に成功させたい。自分の意見を伝えるのが苦手な私でしたが、その思いを推進委員のみんなに連絡しました。そして開催に踏み切ることができたんです。

 前日になって、一緒に司会をする予定だった運営スタッフが急用で来られなくなり、 思いきってRちゃんに代理を頼んでみると、「やってみる」と。2人で司会を務めることができました。急にお願いしたのに、一生懸命進行をしてくれている。この日のために準備してきた私たち、参加してくれたみなさんのために挑戦してくれたんだな。彼女の姿に胸がいっぱいになりました。

 「社会を学ぶサロン」の後は、午後から「佛子園」で「青年のつどい」を開催。今後もボランティア活動を予定していて、交流は継続中です。いろんな人が集まって元気になれる場を身近な場所でもつくっていこうと、決意を新たにしています。Rちゃんにもその仲間になってもらおうと、今、導きの声をかけているところです。

 6月5日には「元気がでるつどいin金沢」を開催します。そこに「佛子園」で関わったみなさんをはじめ、多くの人に参加してもらえるように、仲間と共に声をかけていきます。