Voice

2022.4.1

一音一音に感謝の気持ちをこめて

「手の指先だけじゃなく、頭の先から足の指先まで全身を使って弾いています。一音一音、心をこめて……」。

そう語る田中梨央さん。ピアノ講師の母親の影響で、3歳の頃からピアノを始め、数々のコンクールに出場。音楽系の高校、音楽大学に進学し、ピアニストへの道を歩んできた。


※東京で行われた演奏会で(2019 年撮影)

「中学生までの自分は、コンクールで受賞もしているし、それなりに弾けるんだってうぬぼれていたところがありました。でも、高校、ましてや音楽大学ともなると、全国から実力のある人たちが集まってくる。同級生の演奏を聴くたびに、鼻を折られました。自分は何でピアノやっているんだろうって落ち込んだことが何度もあります。やめたいと思ったこと? 何千回もありますよ(笑)。でも、ふだん道を歩いていても、食事をしていても、気づけばいつも音楽のことばかり考えてしまう。私にはこの道しかないんだなぁって思うんです」

大学で学ぶだけでなく、様々な演奏会に出演したことも、田中さんの糧となった。

「半年から1年かけて練習してきた曲を舞台で演奏できたときの達成感。お客さんからの『感動した』という声。味わうたびに胸がいっぱいになって、頑張ろうと元気が湧いてきました。

私にしか表現できないものがあるかもしれない。少しずつそう思うようになり、地道に勉強とレッスンを続けていきました。その中で見つけたのが、声楽とのア ンサンブル(*)。歌がメインでピアノが脇役というイメージが強いんですけど、そうではなく、どちらも主役なんです。ピアノだけが目立ちすぎても、控えめ過ぎてもいけないからソロよりも難しいんですけど、それだけにやりがいがあって。うまく演奏できると、どちらか一つだけでは生み出せない、魅力的な音楽になるんです。

私はアンサンブルが好きだって気づけたことで、ますますピアノに熱意を注ぐことができました」。

大学・大学院に在学中、田中さんは大阪国際コンクール等、数々の国際コンクールで入賞。卒業後、アンサンブルや室内楽(*)をより深く学ぼうと、音楽の都・ ウィーンの国立音楽大学に留学した。

「ウィーンの大学には世界中から有名なピアニストが学びに来ていました。現状に満足せず、音楽を極めていこうという姿勢にすごく刺激を受けたんです。他の学生も、みんな本気で音楽家を志している上に、お互いに励まし、良いところを褒め合っていました。私も褒められて自信がついて、積極的にいろんな先生のレッスンを受講したり、演奏会に挑戦することができたんです。

留学2年目、新型コロナウイルスの感染拡大で、ウィーンの街がロックダウンし、大学に通えなくなりました。リモートではレッスンに身が入らず、落ち込んでいた私に日本人の声楽家の先輩が何かと気にかけて連絡してくれました。そして、『普段の生活が音楽にも表れるよ。こんなときこそ、だらけずに、きちんと生活をするのが大切』と言ってくれたんです。  母や親せきのおばさんも、心配して毎日連絡をくれて、私の不安な気持ちを聞いてくれました。寄り添ってくれたみんなのお陰で、規則正しく生活しよう。苦しんでいる人たちがたくさんいる今こそ、音楽で人を元気にできるように、一生懸命勉強しよう。そう前向きになることができました」。


※田中さんの母親(写真・右)、祖母(写真・左から 2 番目)、大叔母(写真・左)。
幼い頃から田中さんの夢を応援し、心の支えとなっている


先生から教わってきたこと、作曲された背景などを書き込んだ楽譜。田中さんにとってかけがえのないものだ

一人ひとりの良いところを伸ばしていく

昨年4月、帰国してから田中さんは国内だけでなくオーストリア、オランダ、韓国など海外の演奏会に出演。そのかたわら、コンクールの審査員を務めたり、母親のピアノ教室で子どもたちにピアノを教え、後進の育成に携わっている。「子どもたちに教えるときは、私が教わってきた先生たちのように、一人ひとりに合わせた指導をし、良いところを伸ばしていくように心がけています。指をスムーズに動かせる子には技巧的な曲を、指は動かせないけど、表現力がある子には、より表現できるような曲を教える、といったように。子どもたちが自信をつけて、上達したときには、胸がいっぱいになりました。

最近、いろんな先生に言われてきたことをよく思い出すんです。『感謝の気持ちがなければ、演奏は成り立たないよ』。以前はそうかなあって聞き流していました。でも、周りの人への感謝は大切だと今になって感じています。いつも支えて、夢を応援してくれる家族、これまで熱心に教えてくれた先生たち、私の良いところを褒めて伸ばしてくれたウィーンの先生や仲間。霊友会の仲間も、演奏会に来て応援してくれたり、つどいや弥勒山セミナーで、素の自分を出して語り合う楽しさ、素晴らしさを教えてくれました。たくさんの人に支えられて、今の私がある。そんな気持ちで演奏に臨むと、音の響き方一つとっても違う気がします。

感謝の心をもって、たくさんの人を元気にできる演奏をする。そして、私が受けてきた恩を、今教えている子どもたちに返していく。それが今の私の目標です」。

(*)アンサンブル…少人数の合奏・合唱
(*)室内楽…小規模な会場で、少人数編成で演奏される音楽